オブラディンからのアメリアで優勝していくわね

(この記事は、2021年11月14日にnoteにて公開した文章を、ブログの移転に伴って加筆修正したものです。)

 

ずっと気になっていたゲームである Return of the Obra Dinn のお遍路を終えました。お遍路とは何のことか具体的に説明すると「ゲームを自力でクリアしたのちに、アメリアによるプレイングをVODで追い直す」というものです。まるまる5日はかかった。

当初は読みやすくまとまった形式で完走した感想を残すつもりでいたんですが、書きたいことをうまく一つの文章へ構成しなおすのすら億劫になってしまったので、箇条書きは箇条書きのままで。ゲームの内容・形式そのものについてと、アメリアの実況プレイについての感想二本立てでお送りします。

よすぎサムネイル
元絵はこちら→source

とその前に、以降の部分では話題の性質上どうしても軽微なネタバレに触れざるを得ず、未プレイの人相手にひらかれていない記事となってしまうので、その免罪符として私と同じお遍路が体験できるリンク二種をここに貼っておきます。そんじょそこらでないゲームとそんじゃそこらでないVTuber、何ほどのことやあらん、とまずは自分の目で確かめてみるのも悪くはないはずです。

オブラディン

  • (プレイ序盤)おれはこの展開を知っているぞ。謎のオリエンタルパワーが呼び寄せた災厄で船も船員もあぼーんって系譜だな。間違いない[スケッチに描かれたフォルモサの王族を見て]

  • (プレイ中盤)清々しいまでに人災じゃないか💢

  • (プレイ終盤)ロシア人ふたり同じ場所で死にやがってふざけんなよどう区別しろってんだよ。お前らも同罪だぞ中国人船員

  • 偶然にも「メアリー・セレスト号」のWikipedia記事を読んだことがあったもので、海賊かクラーケンの出没を予期していたらなんと後者が大当たりし、そこで起きた個人的な記憶とのオーバーラップが自分をゲーム世界に引きずり込んでくれた。幸運なことだと思う INA WHYYYYYY

  • それぞれ時を異にして起こった死の幻影で船内が満たされていく様子は、そのショッキングさと背中合わせに、自分が唯一の目撃者として調査を遂行せねばならない使命感をプレイヤーに抱かせる仕組みとして大いに機能していると言える。オブラ・ディン号という閉鎖空間において、空間的であるだけでなく時間的に、すなわち四次元的な積層構造をもって死体という名の手掛かりを提供する、思わず寒気立つようなこのゲームシステムは、プレイヤーとそのプレイヤーが操作する調査官との視座を限りなく近いものにする。

  • と同時に、最後まで推理推論でこのゲームを詰めきった奴なら、事のあらましをすべてそらで語れるだろう、と思わせるほどに立体的な、それこそ「四次元的」な事態の把握が、ゲームクリア後モニターの前で放心状態のプレイヤー脳内に形作られているはずで、これはあらゆるメディア上でかつてない没入体験を作り出すためのいいヒントになり得るのではないか。
    なあに怯えるでないぞ。現に私はいまや、四次元超立方体が滑らかに変形する様子を目裏へ思い浮かべることができるのだからな。君もいずれそうなる。

  • 「特定の残留思念にアクセスするためにいちいち船内を歩き回らなきゃならないのがうっとうしい、手帳から直接飛べたら楽でよかったのに」という意見の言わんとしていることはよく分かるが、先述の理由で自分は全然ストレスを感じなかったな。元より自分は調査官なのだ、という気持ちで動いていたから、甲板間の往復も調査の一環というつもりで粛々とこなすことができた。
    思うに、ゲーム慣れした人ほどこういう儀式めいた冗長な作業を厭う傾向にあるのではないだろうか、だとしたらたまたまビデオゲームの公理に疎かった自分は幸せ者である。

  • ビジュアル・サウンドデザインは言うまでもなく優れていて、魅力的な空間の創成に成功している。Smoothが酔い軽減のためのオプションだとプレイ中に気付いておくべきだった(ぐるぐる目

どうしてこんなことに……泣泣

アメリア

  • アメリアはかわいい。これは完璧に民主的な意見である。3人に訊ねたらそのうち5人から同じ回答が返ってくる

  • アメリアは賢い(頭が回る)。これも十分民主主義的だ。10人に訊ねたら9人がそう言うだろう。
    自分がアメリアより賢明で才知に長けているとの自負がある読者諸氏は、ここいらで10人中の1人側に回ってみてはどうだろうか。私はやめておく。普通に自信ない。

  • 一方でアメリアは結構悪辣でもある。いや、これに関しては全くの偏見で、デモクラシーの「d」の字もないが、自分は確信を得ている。だって seamen で笑うんだもんアメリア (HINT: semen)

  • ゲーム画面に合わせて自身のトーンの調整、こういうことができるのマジで凄い。普段の姿でゲーム画面の前に立つと興を削いじゃうな、というのをちゃんと理解していて、そのうえでかなり振り切った方法でこれを解決している。かっこいい

dither ame

  • プレイスタイルには、いつものことだが探偵というよりかよっぽどゲーマーの面が強く出ているように思えた。割とごり押しするし。
    配信で公衆の目前に晒されてプレイするのと孤独に黙々と向き合うのと、当然環境が異なるわけで、偉そうなことは何も言えんわけですが、あ~この感じだと作品の一番面白い部分味わえてなさそうだなとぼんやり考えたりしながら(この一文は後で消しゴムで消す)topmanの名前を入れ替えてゲームの顔色窺ったりするのを眺めてた。
    でもでも、適当な推論をリズムよく積み重ねては捨ててを繰り返す探偵ムーブとかは、やっぱこの人頭良いよなって気分でわくわくしながら見られました。そういう意味では半々っす。半々なのか。

  • そもそもこの「お遍路」を思い立ったのは、オブラディンのゲーム設定とアメリアというキャラクターのバックボーンがあまりに都合よく合致したからだ。
    オブラディンの主人公は、肩書きとしては保険調査官と訳されるけれども、彼/彼女がこの船上で行うことになる調査といえば、時間をさかのぼれる懐中時計を用いて船員の凄惨な死の真相を追究するというもので、要するに時空探偵業そのものなのだ。これほどのお膳立てがあって、もしアメリアがこのゲームを配信するとなったときに、そのプレイングが様にならない道理はないのである。
    果たしてアメリアはその期待通り(先述した「ゲーマーの顔が奥に覗いてどうこう」という突っ込みどころもあるにせよ)、配信の全編を通してこのゲームへの素晴らしく良質な没入感を提供してみせた。
    ──あるいは? 実は、自分が得たこの没入感こそ、「お遍路」の成就を直接的に示すものだとしたら?
    もしそうなら私は、このゲームとこのストリーマーとを引き合わせたすべての世界の約束に、ひとつひとつ礼を述べて回らねばならないだろう。たくさんの有志がアメリアにこのゲームを薦めてくれていたことを知っているからだ。まにーあいつもありがとう。卑近な言葉で表すなら、これは一種の予定調和である。

美しすぎて草

 


以上、プレイと視聴に際し長大な時間が燃えカスとなって消えていったが、他にまったく代えがたい体験ができて感激です。あるひとつの作品をこれほどまで縦横無尽に味わえるというのは稀有なできごとで、その事実に、自分がこの上ない幸福を感じていることは間違いありません。アメリア・ワトソンのことももちろん、知っていて本当によかったし、これからも彼女の活動を追い続けることになるでしょう。

 

そうそう、最後にとても有益な商品をおすすめしておきます。
アフィリエイトじゃないよ。少なくとも今はな。